幸せの花が咲く町で
僕はやっぱり駄目な人間だ。
なっちゃんだけではなく、小太郎にも迷惑をかけていたんだ。



(そして、これから先もまた迷惑をかけることになるかもしれない……)



昨夜、そのことをなっちゃんに相談したかったのだけど、簡単にすむ話じゃないことはわかってたから、やめておいた。
なっちゃんは、夜遅くまで仕事をして疲れてるんだし、今日と明日は休みだから今日にでも話せば良いと思って……



「ねぇ、優一……今日、ちょっと出かけて来て良いかな?」

「え…良いけど、何かあるの?」

「うん…ちょっと取引先の人と食事会みたいな……」

「そうなんだ……そんなに遅くはならないよね?」

「うん、ほどほどで帰って来る。」



何時に出かけるのかわからないけど、出かける前に面倒くさい話をするのは気が引ける。
相談はなっちゃんが帰って来てからだ。







夕方あたりに出かけるのかと思ったら、なっちゃんは昼過ぎに出かけて行った。
僕は、これといってすることもなく……



「小太郎、公園でも行こうか?」

「うん、行く!」



退屈しのぎに小太郎を連れて公園に行くことにした。
それはただの言い訳で、なんとなく篠宮さんの顔が見たかったのかもしれない。



昨日気付いてしまった自分の気持ち……
それだけは、なっちゃんにも打ち明けることは出来ない。
この先も、僕の心の中だけに封じ込めておかなければいけない気持ち……



もう何年も誰かを愛したことなんてなかったから、それが愛なのかどうかさえ、僕にはよくわからなかった。
なっちゃんと同じように、姉に感じるような気持ちなのかもしれないし、もしかしたら、感謝の念が姿を変えただけの気持ちかもしれない。



(……そうだよ。
そうじゃなきゃ、結婚してる人とわかってる人を好きになったりしないはずだ。)



僕はけっこう頭が固い方だから、不倫だのなんだの、そういうものには反感も強い。
裏切ることも裏切られることも、どちらも嫌いだし、傷付くのも傷つけられるのも、どちらもいやだ。



(きっと、違うんだ。
篠宮さんにひかれるのは、恋愛感情とは違うものなんだ、きっと……)



僕は自分に言い聞かせるように、何度も心の中でそう繰り返した。
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