幸せの花が咲く町で




「何かお手伝いしましょうか?」

「大丈夫ですよ。
お疲れでしょうから、小太郎と一緒にゆっくりテレビでも見てて下さい。」

「いえ、疲れてなんかいません。」

私がそう言うと、堤さんは私の顔をじっとみつめて……そして、ふっと微笑まれた。
ちょっと強引だったかもしれないと反省してももう遅い。



「そうですか?
そしたら、僕は今からてんぷらを揚げますから、篠宮さんはサラダをお願いします。」

「はい。」

堤さんに指示された通りに、私は野菜を切り、コンロの方では堤さんが汗を流しながら天ぷらを揚げて……
こんな風に、一緒に台所に立つのは何か月ぶりだろう?
野菜を切るだけでも顔がにやけてきて、私はそれを隠すのに必死だった。



「あ、篠宮さん、そこにあるゴーヤーも入れて下さいね。」

「えっ!サラダにゴーヤーですか?」

「……夏ですからね。」



他愛ない会話の一つ一つまでもが、酷く愛しい。
花屋の前で交わすのは、挨拶とせいぜいお天気のことだけだもの。
ここに来れば、もっとたくさんの話が出来るから。



天ぷらがあらかた揚がった頃、玄関のチャイムが鳴った。



「すみません。ちょっと出てもらえますか?」

「は、はい。」



「あ、来てくれたんだ!」



帰って来られたのは夏美さんだった。
部屋に入られた夏美さんは、あたりを見回しどこか残念そうな顔をされたけど、私にはその意味はよくわからなかった。



「優一~お腹すいた~」

「おかえり、なっちゃん。
もう出来るから……」

「ママー、お帰り~!
今日は早いね!」

「うん、いつも遅くてごめんね!」

私は再びキッチンに入り、テーブルの上に出来上がった料理を並べ始めた。
その時、また玄関のチャイムが鳴った。



「あ、来たかな!?」

夏美さんが玄関に向かって走って行かれた。
あの言葉から察するに、ご主人が来られたんじゃないかと私は推測した。
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