幸せの花が咲く町で
三十を少し過ぎた頃だったか……
ふと、自分の人生を虚しく感じた。
それは職場で同年代の人達が、結婚したり、彼氏の話をよく聞くようになったせいかもしれない。



私は、おしゃれもせず、おいしいものも食べず、楽しい趣味を持つこともなく、ただただ働くだけで……
それも、生きがいのためなんかじゃなく、ただ、お金のためだ。
莫大なお金ではなく、最低限の生活しか出来ないお金のために、私は働き続けて来た……
あらためて考えると、その虚しさに吐き気がするほどだった。



私はこのままただお金のために働いて……
人生の楽しみを何も知らずに死んでいくのかと思ったら、たまらないほどの焦りを感じた。



その時、小耳にはさんだ同僚の話が頭に浮かんだ。
メル友サイトで知り合った人と付き合ってるという話だ。
私は早速、検索してサイトをみつけ、登録した。



『年齢、性別、問いません。
どなたかよろしくお願いします。』

趣味は読書ということにした。
なしと書くのもあまりに味気ないと思い、最近は全く読んでなかったけれど、子供の頃は本を読むのが好きだったから。
ハンネはなかなか思いつかなかったので、ひらがなで「かおり」にした。



少し経つと、続々とメールが届いた。
数分おきに鳴り響くメールの着信音……
びっくりすると同時に、なんだか胸が弾んだ。
まるで、自分が人気者にでもなったかのような錯覚に、私は長い間忘れてたわくわくする気持ちを感じてた。


「いたた……」


来るメール、全部に返信していたら、親指が痛くなった。
嫌われないように、返信にも気を配り、夜通しメールを打ち続けた。


何度かやり取りをすると、「どんなタイプ?」「誰に似てる?」「身長と体重教えて!」
必ずといっていい程、容姿についての質問をされた。

自分の容姿には自信がなかった。
いつも同じような地味臭い服を着て、美容院には行ったことがなく、化粧もほとんどしない。
特別醜いとは思っていなかったものの、自分に魅力がないことはわかっていた。
そうでなければ、今までに一度や二度くらい、男性に声をかけられるはず。
職場ではいつも実年齢より上に見られたし、私の容姿に誇れるものは何ひとつなかった。



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