エンビィ 【完】




「今回だけだよ……次はこんな真似させない」



神妙に呟いた男は、



「して下さっても構いませんわ。何回でも」



ユキノの次なる返答に、最上級に眉を上げた。


目を細める男は、あたしですら伝わるほどに不愉快感を出しているのに、ユキノは口角を綺麗に上げたまま、楽し気に笑う。



薄暗いバルコニーに差し込むのは、

月明かりだけ。



黒のロングドレスに、黒のロンググローブ。赤にピンクの混じったウエーブのかかる髪には、二輪の深い青みのかかった薔薇。


さきほどまでは、異国の人形感を漂わせていたユキノは、

いまでは魔女のよう。



2人は、あたしの存在を無視して見つめ合う。




「約束…忘れたわけじゃないよね?」


「勿論ですわ」


「………本当に?」


「ええ」


「………」




< 85 / 195 >

この作品をシェア

pagetop