エンビィ 【完】
「今回だけだよ……次はこんな真似させない」
神妙に呟いた男は、
「して下さっても構いませんわ。何回でも」
ユキノの次なる返答に、最上級に眉を上げた。
目を細める男は、あたしですら伝わるほどに不愉快感を出しているのに、ユキノは口角を綺麗に上げたまま、楽し気に笑う。
薄暗いバルコニーに差し込むのは、
月明かりだけ。
黒のロングドレスに、黒のロンググローブ。赤にピンクの混じったウエーブのかかる髪には、二輪の深い青みのかかった薔薇。
さきほどまでは、異国の人形感を漂わせていたユキノは、
いまでは魔女のよう。
2人は、あたしの存在を無視して見つめ合う。
「約束…忘れたわけじゃないよね?」
「勿論ですわ」
「………本当に?」
「ええ」
「………」