真夜中の猫

亮は資格も取り不動産の売買もするようになり、仕事の成績も良く社内でも一目置かれるようになった。お得意さんも何人か持てるようになり、関連業者や同業者の仲間も増え、情報がよく集まった。住むところは友人のところを引き上げ、中古マンションを購入した。車もトヨタの黒いRV車を買い、1人で暮らすには不自由はなかった。
亮にはどこか人を惹きつける魅力みたいなのがあって、彼女と別れてもすぐに次の女ができた。
そのうちに亮のマンションに彼女が住むようになった。
同じ会社の年上の彼女だった。彼女は寛美とは違って気分屋でもないし、亮が一日中ゲームをしていても邪魔してこなかった。会社の同僚には内緒にしていたが、その分2人でいる時はゆっくりできた。
若いこのように気を使わなくていいし、食べるものもヘルシーなものが好みで、2人でよくフグを食べに行ったり、海鮮丼の美味しい店に行ったりした。干渉されることもなかったので、合コンに誘われれば行った。
仕事も恋もすべてがうまく行っていた。
それでも寛美にもらった手紙なんかは捨てられずに箱の中にこっそり隠し持っていた。
掘り起こして懐かしむことも少なくなり、亮は自分の世界を広げて行った。


寛美は同期の仲間とあいかわらず飲みに行ったり遊んだりしていた。
寛美は飲み出すと潰れるまで飲んで人によく迷惑をかけた。
合コンで話が盛り上がらなかったら、隣のサラリーマン達と合流し意気投合してはしゃぐという失礼なこともしていた。
今夜の飲み会は同期の定期的な飲み会で、誠治もきていた。
「久しぶり。」
「そんなに久しぶりだっけ?この間みんなで押しかけたじゃん。」
「あ、そっか。もしかして結構のんでる?」
「そうかも。」
「強いよね、顔に全然でてないし。俺なんかすぐに真っ赤っかだよ。」
「素直なんだよ。あたしはどうせひねくれてますから。」
寛美のワイングラスがまた空いた。
「そろそろお開きなんだけど、この後一緒にどっか行かない?」
寛美は少し考えて隣にいた真由香をつかまえた。
「真由香も行くんなら行く。」
結局6人でバーに行くことになった。
寛美は酔いを冷まそうと先に支払いを済ませ、外の通りの隅に立っていた。行き交う人ごみに亮がいないかボーと見ていた。
すると見知らぬ男2人が寛美に声をかけてきた。うっとおしかったが腕を掴まれた。振り払おうとしたが力が出なかった。
「やめろ!」
背後から凄い剣幕で誠治が走ってきた。
男達は寛美から離れ逃げるように走り去った。
「こんなとこに1人でいたら危ないじゃないか!一応女なんだから。」
「なにそれ、一応女って。」
「俺は女としてみてるってこと。」
寛美は黙り込んだ。まただ。こんな時どうしたらいいか分からなかった。心の中には亮がいる。それを知らずに寛美に好意を寄せる人がいる。寛美は気が付いたら泣いていた。
「辛いこととかいっぱい隠してんだろ?俺にはいえる?」
寛美は少し考えて小さくうなずいた。
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