せいあ、大海を知る
いつかの記憶
授業の内容なんて一切頭に入ってこない。


早い鼓動は収まることを知らないのか、ドドドドドと早く強く打ち続けている。


だって、こんな事が起こるとは思っていなかったから。いつの頃からか、私は他の誰とも違っていて、可笑しいんだって思っていた。


目立たないように周囲に合わせることが当たり前になっていた。


授業に集中できないまま、俯いていると、ふと懐かしい記憶が蘇ってきた。


初めて自分が異常だと気づいた日のことを。蒸し暑くて堪らない季節だった。


悲しくて、悲しくて、けれど誰にも共感してもらえなくて、寂しくて、寂しくてたまらなかった日の記憶。





私だけが知っている。


人は急に消える。いなくなる。


まるで最初から存在しなかったかのように、綺麗さっぱりと記憶からも消えてしまう。


誰も気づいていない。


気づいているのは私だけ。





……そう思っていたのに。





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