せいあ、大海を知る
忘れいくほうが正常だって言い聞かす。けれど、時々忘れてしまっていることが悲しくなる。大事な物を捨ててきたのと同じで、胸がぎゅっと苦しくなる。


大好きな人だったのに。忘れたふりをしなくちゃいけないのは辛かった記憶がある。


昔は存在していたはずの祖父母と私の3人で買い物に出かけた時のことだった。祖父母と両親と5人で暮らしていたころの記憶。私にだけ刻まれている記憶。


小学校4年生の時だった。あの日初めて周囲との違和感を覚えて、人に喋っちゃいけないんだと本能的に感じていた。










「じいちゃん、ばあちゃん、また行こうね。今度はお母さんたちも一緒に」


じいちゃん、ばあちゃんに挟まれながら、2人を交互に見上げて、お願いをした。お母さんと出かけたら、あれは・ダメこれはダメってあんまり買ってくれないけど、2人なら好きなものを買ってくれる。


じいちゃんが手に持っている紙袋を見て、ニヤニヤと笑ってしまった。あの中にはおもちゃだって、洋服だって入っている。


「お母さんがいたらこんなに買い物できないわよ」


私の言葉にばあちゃんは、くすくすと笑いながらそう言った。甘やかしている自覚はあるらしい。


「じゃあ、また3人がいいね」


「千夏は調子がいいな」


大きな掌が、私の頭をぐしゃぐしゃとかき回していって、同時にガハハと豪快な笑い声が頭の上から聞こえてくる。


少ししゃがれた声も、私を笑顔にしてくれた。

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