お金より体力が大事?
幸鷹はどうやってS&Y社の事務所まで帰ってきたのかも覚えていなかった。

ひたすら必死に自転車をこいで帰ってきた。


(俺はただ、救済されただけだったのか・・・。)


それから3週間が過ぎて、小花も幸鷹も会うことも仕事場でお互いの話をきくことはなかった。


幸鷹がいるS&Y社も小花のスタッフから集めたメンバーと幸鷹本人も勉強したせいか、会員数も増え、いい感じの経営ができていた。


「だいぶ、調子が出てきたな。」


「樋川専務ががんばってくれたおかげですよ。
どうですか、そろそろ社名にのっとって代表になりませんか?」


「いやいや、社名は資本金や必要経費を出してくれた小花社長がつけたものだから、勝手にはできないし、まだまだ俺は社長になる器じゃないよ。

せめてあと10年は勉強してからでないとね。
それに、まだ現場でお客様と接していたいっていう気持ちもあるからね。」


「あっ、現場といえばですね。
先ほど、雨咲社長のところの第一秘書という方がランニングマシーンのところでお待ちです。」


「ランニングマシーンだって?」


「走っておられたと思います。」


「わ、わかった・・・いってみるよ。」


幸鷹がランニングマシーンのところへいってみると、ぜえぜえいいながら小花の秘書である仲元佑子が休憩をとっていた。


「おつかれ。・・・で、俺にどういったご用件ですか?」


「じつは、小花が・・・。」


「小花に何かあったのか?」


「あの、グループでサイクリングに行ってきたんですけど、帰り道に左足の親指を骨折したあげく、足首を捻挫してしまって、まだ思うように動けないんです。」


「えっ!!トレーニングまでしてたのに?」


「けっこう無理してたんです。
あのとき、ちょっと強引かなって思える週刊誌に載せる仕事が入ってて、それであんまり寝てなくて。」


「行ってやりたいけど・・・俺はもう捨てられた身だからな。
彼女のところにいったら不愉快な顔されるだけなんだよ。」


「違います!小花は・・・小花は泣いてました。」


「けど・・・もう逢いたくないっていったのは小花だ。」


「それは、きっと幸鷹さんが小花にとって大切な人だからです。
私は知っています。
小花はご両親を事故で亡くしてから自分には誰も守れないと思っています。

大切だから、ガラスケースに丁寧にしまってしまうんです。」


「ガラスケース?」


「ええ、ガラスと言ってもとても丈夫で小花がお気に入りのケースがあるんです。
その中に、幸鷹さんグッズがびっしり入っていました。

テレビや雑誌でお見かけしなくなってからも、つらいことがあるとケースの中をあけてこっそりながめていたんです。」



「そんなことをいきなり言われても・・・本人が会ってくれないのではねぇ・・・。」


「うちのマンションにきても小花は今、いません。
ライバルの小説家でもある春日丘良斗(かすがおかよしと)に軟禁されちゃったんです。」


「なんだって?で・・・その春日丘ってやつはどうしてそんなことを?」


「それは小花が学校から帰るときに、高岡って男に百貨店で会って文具おたく青年と百貨店で楽しんで、家まで送ってもらったらしいんですけど、その高岡が春日丘良斗で、本人は彼氏気取りで身の回りの世話をしてやるというものの、小花に執筆させないように妨害してるんです。」


「で、小花は今その男の家にいるのか?」


「うちのスタッフの調べたところ、春日丘良斗も今、仕事がものすごく忙しい様子で、邸の部屋にはいるらしいんですが、身の回りの世話は使用人にさせているだけらしいです。

しかし・・・彼女はけが人です。そして締切もあるのに・・・。」


「あんたは俺に助け出せというんだな。」


「はい、正確には助け出してからS&Y社か幸鷹さんのお住まいとか隠れ家のどこかで匿ってもらえるとありがたいのですが・・・。」


「わかった。場所を教えてくれ。」


「はい、それから・・・小花は自分で思うように動けないくせに幸鷹さんの写真を持っていきました。
それが春日丘良斗にわかってしまったら何をされるか・・・心配で。」


「君は小花と付き合いが長いの?」


「幼なじみなんです。私はもともと孤児だったけど、生き別れになっていた兄さんに会うことが出来ました。
みんな小花のおかげなんです。
だから、小花が妙な気をつかったり、悲しんだりするのが嫌なんです。」


「そうか・・・じゃ、俺も腹をくくらなきゃな。」
< 16 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop