お金より体力が大事?
小花はクスッと笑うと、山口にこういった。


「山口さんって以前の私みたい。
私も樋川さんを山口さんが言ったみたいに憧れてた。

スクラップブックも作ったし、1試合1試合の情報を手に入れたり、プライベートが知りたくて体育館でコソコソとまわりをうろついてみたりね。」


「なるほど、憧れは大切ってことですね。
あ、ディナーっていっても安いですからね。
僕のおごりですから・・・。

歓迎してくださるならいくらでもごちそうされますけど。」


「あははは、じゃ、高給作家におごられてください。」


「おおっ!ごちになります。」


2人はスタッフみんなが通っているレストランにいつもと変わりなく出かけていった。




幸鷹も小花も多忙な日常が続き、それが当たり前になりかけた頃。
2人が離れて5か月と2週間たったときのことだった。


幸鷹の携帯電話に電話がかかってきた。


「はい、樋川ですが・・・この電話は一部の人しか番号を知らせていないんですけど。」


「あの、僕は小説家の晴波優樹菜の秘書をしている山口と申します。
じつは晴波が移動中に事故がありまして、傷を負って発熱してるんです。
それで、うわ言で『幸鷹さん』と何度も・・・」


「えっ!・・・で、今、どこにいるんですか?
病院名とかアクセス方法を教えてください。」


「はい、すぐファックスで送りますので、番号を教えてもらえますか?」


「番号は・・・」



幸鷹はS&Y社の事務所にきていたところだったから事務所のファックス番号を教え、切符の手配も秘書には頼まないで、自分ですべて行なった。


「切符なら私が・・・」


秘書の北川が口を差し挟みだそうとしたところで、幸鷹はすぐに命令を出した。


「北川さんは俺が留守の間のことを頼む。
フィットネスイベントの進行や新しい宣伝のポスター刷りとCMの進行を頼むよ。」


「そんなに、社長は大切な方ですか?」


「ああ。大切だし、俺がいないと無茶ばかりする悪い子さ。
君より7つも年下のかわいい娘だからね。

今度こそ、引っ張って帰って来ないと、俺は不良のおやじになってしまう。」



「えっ・・・7つも上じゃなくて下なんですか?」



「知らなかった?あぁ・・・君は手早く調べるのは得意だけど、コツコツ調べるのが苦手だったね。
晴波優樹菜こと雨咲小花はまだ大学生の共同経営者だよ。

だけどね、俺のことは何でも知っていてスクラップブックや、生写真をしっかりと小説の資料よりもきちんと整理してくれてるステキな俺のファンでもある。

まだ大学生だからってのんびりしていた俺が悪かったんだけど、そのせいで彼女は俺を額縁に飾りものにして、いろんな仕事にチャレンジしてしまった。
若いうちにいろんなことに挑戦するのはいいことかなって思ったけど・・・やっぱり、俺は。」



「早く帰って準備してください。
こっちのことは他のスタッフとやっておきますから。

困ったことができたらお電話しますし、とにかく行ってください。
それと・・・困った小娘は有無も言わさず、かついで帰ればいいんです。」


「北川さん・・・。ありがと。
あとのこと頼みます。」
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