聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
『…けがは?』

―好きだった…。

リュティアの頬を、はらりと涙がこぼれ落ちる。

『星麗の騎士ではない。ライトファルス―ライトだ』

好きだった…。

『俺を憎んだか』

好きだった、好きだった、好きだった…!!

たまらずにリュティアはしゃくりあげる。涙が止まらない。

ライトに出会って、初めて知ったことばかりだ。人をこんなにも恋しく想う気持ちも、失恋のこんな痛みも…!!

その時庭の石畳を力強く蹴る足音が聞こえてリュティアははっと涙に濡れた顔を上げた。

庭をこちらへと駆けてくる漆黒のマントの人影が見える。

―誰…?

護衛の兵だろうか。何かあったのか。

しかしリュティアの目はしだいに、信じられない人の姿をとらえる。

揺れる漆黒の髪。凛々しい瞳。

リュティアは間違いなく自分は幻を見ているのだろうと思った。その人のことばかり考えていたから、幻を見ているのだと。だからぼんやりと、半ば夢を見ているような心地で、その人がこちらへと近づいてくるのを見つめていた。

彼は―、ライトの幻は、リュティアから少し距離を置いた場所で立ち止まった。

相当な距離を走ったのか、肩で息をしている。なんてリアルな幻だろう。リュティアは声もなく、ただ彼をみつめる。

「聖乙女(リル・ファーレ)……」

彼の響きの良い声が耳を打って初めて、リュティアは我に返った。

幻などではない。ライトだ。本物だ。

その瞬間全身を貫いたのは痛みだった。なぜ彼がこんなところにいるのか、その疑問よりなによりまず、心が鋭い痛みを訴えた。それと同時にどこかがまた会えたことを喜んでいるこの矛盾…。

リュティアは何か言いかけ、しかし言葉にならない。
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