聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~

「大丈夫か、カイ」

なぜ名前を知っているのだろう、とカイがまだ緊張に身を固くしたままそう思っていると、ファラーガが跪きカイの石化した左足に両手をかざした。

するとそこから淡い光が放たれ、みるみるうちにカイの左足に再びあたたかい血が通い始めた。

リュティアとそっくりな癒しの力を見て驚いているカイに、ファラーガが苦笑交じりに説明する。「番人ともなれば、この領域でできぬことなどない」と。

足から痛みがなくなったことでやっと、ひとまず危険が去ったのだとカイにも実感できた。

「あなたは…星麗だったのですね…?」

「ああ。まだここの番人には選ばれたばかりだ。その時に人間を導く証としてふた房の黒髪を賜った」

頷いたファラーガの瞳は青い。その青はいったん瞼に隠され、それから強い輝きをもって再びあらわれた。

「こんな日が来ることはわかっていた。だから私はある者にわざと殺され…ここでずっと、お前たちを待っていた…」

番人ファラーガの脳裏に蘇る、命を失った時の記憶。

『よくも今まで、俺を騙していたな! 俺は、魔月王であったのに! 聖乙女を守れなどと…よくも』

黒髪の少年の、憎しみをこめた言葉。

ファラーガは何も答えず、彼をただみつめる。

そして自らが教えた少年の剣の技をもって、ただ静かに、その命を散らしたこと。

しかしそれらの思い出は、きっともう二度と、誰にも語られることはないのだろう。
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