聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~真実の詩~
第三章 女王

世界は白い。

白い空から、白い雪が降り、この鋼鉄の国を白く染める。

―白い雪は今の自分に似ている…。

はらはらと、まるで泣いているようにあとからあとから降ってくる雪を、ライトはぼんやりと力なく見上げて思う。

―冷たく儚く、どこまでも静かで、今にも溶けて消えてしまいそうだ…。

一月前のあの日、聖乙女を手にかけたライトは、わけのわからない激情に支配され、グランディオムに戻るなり手当たり次第にありとあらゆるものを壊して回った。王城の尖塔はひとつ丸ごと破壊され、ライトの部屋の天蓋も鏡もチェストもベッドもすべてが粉々になった。

やがて激情がやわらぐと、今度は頭の芯がぼぅっとなって何も手につかなくなった。

体にはついに封印を解かれた新しい闇の力が満ち満ちていたが、ライトはそれを使うこともなく、政務もとらず、他国を攻めようともしなかった。

肌身離さず持ち歩いていた剣すらも持たなくなった。

そうしてここ王の庭で、こんなふうに日がな一日、降る雪を眺めているのだ。

『私は…そんなに泣き虫ではありません』

ライトの脳裏に、この一月何度も何度も繰り返し思い返したあの日の聖乙女の言葉が蘇る。泣き虫ではないといいながら、彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。

『そうやって、あなたが、泣かせるのではないですか』

潤んだ瞳と目が合った。

その時二人の間に落ちた沈黙。

その沈黙はライトに今まで感じたことのない感情を呼び起こした。

ざわりと胸が騒ぐような言い知れぬ感情。

黄金の落ち葉がゆっくりと舞い、喜ぶように彼女の桜色の髪や白い肌に触れては落ちていく。その場面をライトは美しいと思った。…だからだ。だからライトはとまどった。まだ何かを美しいなどと思う心が残っていることにとまどったのだ。
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