純愛は似合わない
自分の浅はかな欲望に嫌悪した。

「……結局、何のしがらみも無く貴方と寝るのは無理って訳ね」

「未だに悪くなかった。取引きの判断材料にはなるだろう」

悪くなかった、なんて。
……どれだけ上から目線なの。

「自分が何を言ってるのか本当に分ってる?」

「分っているさ。少なくとも早紀は、他の男にはやれない」

「それなら敷島さんは? 貴方には敷島さんがいるじゃない」

「お前が考える必要は無い」

途中で感覚が麻痺していたらしく、手を握られていることすら忘れていた。

速人が私の手を持ち上げたことで彼の手の存在を思い出し、その手を振り払う。

「私の利用価値を評価して頂いたところで。……今日は帰ってちょうだい」

確認しなければならないことを、頭の中で整理しようとして、気付く。

不可解に思えた、ヒロに対する光太郎の的外れな牽制の意味が輪郭を捉えた。

私の知らないうちに、外野がバタバタと動いている。

父にもいい加減、対峙しなくてはいけないようだ。

速人は私の頭の中の算段を読み取ったように、口の端を持ち上げた。

「よく確かめて考えると良い。……悪いようにはしないつもりだ、婚約者殿」

速人は私の頬に手を伸ばした。

そして、有無を言わせぬ素早さで顔を近付けると、唇を奪う。

そのキスすら彼の胸を私が突き飛ばす前に終らせるのだから、本当に憎たらしい男だと、帰る背中を眺めながら心の中で呟いた。


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