純愛は似合わない
「私がモートンの株を貰っても、今となっては嬉しいなんて思えないけれど?」

「……親父さんと連絡を取っていないのか」

仕方のない奴だと言わんばかりな速人の口調が癇に障る。

「何の用事も無いでしょ」

「それはどうかな。……親父さんは話しをしたいかもしれない」

速人の回りくどい言い方に、多少なりとも不安を覚えた。

「ちょっとした株の動きは、命取りになる場合もあるからね」

「……何が言いたいの?」

「例えば、アメリカの投資会社が安定したモートンの株を欲しがるかもしれない。そしてどこぞの外資と吸収合併、なんて場合もね。そんな時、僕の手にしているものはどんな手段になるか分かるか?」

速人の描いてみせた青写真は、背筋がうすら寒くなるものだった。

「それは……脅迫に聞こえるわ」

「人聞きの悪い。例え話かもしれないし、近い将来の話しかもしれない」

「……私に、自分のために生きろって言ったくせに。貴方にそんな言われ方をしてから、大した時間が経っていない筈よ」

それを一番阻んでるのは速人じゃないの?

速人は声を立てず、笑みを浮かべた。

「悪いな早紀。刻々と状況は変わるんでね。訂正するよ」

全く悪いと思っていない速人の態度に、私の眉間の皺が深くなっていくのを感じた。

昨日のうちに全てを聞いていたら、少なくとも夜を共にはしなかっただろう。
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