純愛は似合わない
速人の強い視線に晒されて居心地は最悪だが、そうも言っていられない。

ようやく言える機会が廻って来たのだから。

「自分のことだけ考えて生きろって、そういうことでしょ」

さっき速人が口にした時は腹が立ったが、本当に何も考えないくて良いのならば、こんなことは早く終わらせるべきだ。お互いが新たなスタートを切るために。


「……早紀。お前がどう思おうと勝手だけど、僕はこの婚約を偽りにするつもりは無いよ」

私は速人の言葉に、思わず目線を彼に戻し凝視した。

何言ってるの、この人。

「僕達は、お互いを知っている。今更、取り繕う必要も無い。両親とも仲が良い。これ以上の相手なんていないだろ」

速人はつらつらと利点を述べた後で、シニカルな笑みを浮かべた。

「僕達、体の相性は良かったはずだ。……そうだろ、早紀」

答えを促すように首を傾けた速人は、口元は笑っていても瞳はまるで笑っていない。

「そんな昔のことなんて忘れたわ。貴方が私の最後の人になるとも思えない」

こんな精密機械みたいな速人と、名目だけになるだろう結婚なんて出来る訳がない。

昔の彼を知っていれば尚更だった。

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