純愛は似合わない
そんな大それた話しをしたつもりは無かった。

穂積さんの弟子であるヒロが、店を持つらしいと、美好さんに伝えたのは私だ。だが面識のある彼のために、一肌脱ぐわよ、と言ったのは私では無い。

ましてや、融資の話しなんてする訳も無い。

「ちょっと待って、それは誤解なの」

「……僕は、慰めは見出だすなって言った筈だよ。婚約者殿」


速人にグイッと押され、ソファの上で私の体がバウンドした。速人の手は私の手を固く捕らえ、揺るがない。

「僕は自分の持ち物を他人に弄られるのは好まない。……女も同様だ」

「こんなやり方馬鹿みたい。自分は海外にいるくせに」

「僕には友野を担う責任がある。この過程が無ければ、跡を継ぐことも無いんだよ、早紀」

アメリカに行くのが必然だったと言うのであれば、私は何を信じたら良いのだろうか。

「……早紀に言っても分からない話しだ。お前は僕の敵では無いが、味方でも無い。そうだろう?」


また、心が萎んでいく。
私の手に入らないものが、また1つ。


速人は私の胸元へ顔を埋めた。

彼は冷たい言葉を吐きながらも、確実に高みへ駆り立てるような愛撫を私の体へ注ぎ込む。

優しいとは言い難い行為に息を切らしながら、ただ彼を受け入れた。

こんなの、ただのセックスだ。

お互いの欲望を処理しているだけ。

身体の中心が熱く潤うのに反して、心は益々冷えて、渇いていった。
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