豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


そこで、稽古場の扉が「ガラガラガラ」と開く音が聞こえた。


「たかし……」
動揺したゆうみの声。


光恵はぱっと飛び起きた。
孝志も驚いて振り返る。


「あ、ゆうみ……そうか……」
孝志はそう言って立ち上がる。光恵の手を引いて立たせようとしたが、光恵はその手を取らず、一人で立ち上がった。


ゆうみは扉のところで、驚いた顔で孝志と光恵の顔を交互に見ている。


「迎えに来てって、言われたから……」
「ああ、そうだった」
孝志はちらりと光恵を見ると、そのままゆうみの方へと歩いて行く。


扉を出る時、ゆうみは孝志の顔を見上げ、それから光恵の顔をじっと見つめた。
大きな瞳はゆらゆらとしていて、何かの感情がゆうみの中に動いているのがわかる。


「ミツは帰らないの?」
「……うん、仕事があるから」
「そうか。気をつけて。戸締まりちゃんとして、危ないから」
「わかった、ありがとう」


何事もなかったように、そう会話をすると、扉は静かに閉められた。


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