豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


光恵は力が抜けて、床の上にへたり込んだ。どっと汗が出てきて、今になって手が震えてくる。


あいつ、キスしようとした。
どうして?
昔を思い出したから?


「小デブのくせに」
光恵は震える声で悪態をついたが、目に焼き付いている孝志の姿は、小デブではない。


俳優の佐田孝志。


「はあ、余計に仕事になんない」
光恵は鞄を引き寄せて、深いため息を何度もついた。


それからふと、光恵を見ていたゆうみの瞳を思い出した。


「彼女、稽古中はいつも『佐田さん』って呼ぶのに、さっきは『孝志』って呼んでた」


そう気づくと、ズキッと胸が痛む。


練習相手は、あの子かもしれない。


光恵は思った。


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