豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


大歓声の中、幕が下りた。
深々と頭を下げていた孝志が、ひょこっと頭を上げた。


笑ってる。


光恵もつられて笑顔になった。


「みんな、お疲れ! いい公演ができたと思う。それはみんなが一丸となって取り組んだからこそ。しばらく休んで、身体も心も新しい自分になってまた帰って来てくれ。打ち上げはいつもの店、十時から!」


楽屋で池谷がそう言うと、劇団員達から歓声があがった。


光恵は、鏡の前でメイクを落としている孝志に話しかけた。


「おつかれさまでした。最高だったよ」
「ありがとう。ミツのお陰だよ」


鏡ごしに孝志が言う。


「ほら、これ」
光恵は、預かっていたポテトチップスと冷えたファンタグレープを、孝志の前に置いた。


「もう解禁。でも、気を緩めたら戻っちゃうからね。こういうのは少しにして、運動を続けるんだよ」


鏡の中の孝志の顔が躊躇するのがわかった。あんなに欲しがっていたファンタに手を出さない。


「どうしたの?」
「う……ん。ミツ、もうちょっとこれ預かってて」
「なんで?」
「この身体でまだやることがあるんだ。手元にあると食べちゃうからさ」


そういって微笑む。


「別にいいよ、もちろん」
光恵はそう答えて、再びポテトとファンタを鞄にしまった。


なんだろう、やることって。


光恵は首を傾げたが、一週間後、孝志があの身体でしたことが、何かわかった。


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