豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


孝志は、それほど暑くもないのに、汗を腕で拭いながら入ってきた。


「よお、また随分ふくらんだなあ」
三池が呆れたような顔をした。


「すいません」
孝志は鞄を置くと、役者の輪の中に入って行く。


「痩せられんのか?」
「たぶん」
「ま、いつものことだから、心配はしてないけどな」


佐田孝志は、二十六歳。光恵と同い年。
光恵が入った三年前には、すでに劇団の顔となっていた。二重の大きな目にすっきりとした鼻筋で、女性のような甘さがある顔だ。けれど彼の首筋から肩にかけてのラインは、顔立ちからは想像できないほどにセクシー。舞台の上にひとたび立つと、誰もが目を離せなくなる。


今は見る影もなく、すべてが肉に埋まってるけれど。


光恵が初めてこの劇団の舞台を見た時、孝志の輝きに目を奪われた。彼が全身で表現する感情は、光恵の心を震わせた。


まんまるな孝志は光恵を見つけると、にこっと笑って手を振る。


あんぱんまん、みたいだわ。
光恵は曖昧に笑い返した。


オフ明けの彼を見た時は、失恋にも似た喪失感を味わったなあ。
光恵は小さく溜息をついた。


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