豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


「よし、台本配るぞ」
三池が立ち上がって声をかけた。
「読み合わせは一時間後。それまで各自読み進めてくれ」


光恵が一番緊張する時。台本を一人一人に配りながら、祈るような気持ちになった。孝志も固い床の上にごろりと横になって、台本を読み始める。誰の目も真剣だ。


「今回、いけると思うよ」
三池が光恵の隣に座って声をかけたきた。


「ありがとうございます」
光恵は頭をさげる。


「この本の世界をうまく舞台の上に作れるように頑張るから」
三池はそういって、優しく微笑んだ。


大人の男性とはこういう人を言うのだろう。三十半ばで落ち着いている。誰とも平等に接し、みんなから尊敬されている。短い髪に少し白髪が混じっているところも、なぜか老けているという印象ではなく、かっこいいのだ。噂によると昔は随分ハメを外したらしいけれど、今はそんな感じは少しもしない。うまく歳をとっている、そんな人だ。


「ミツ!!!!」


三池の雰囲気に癒されていた光恵は、その声にびっくりして、思わず「わ!」と声をあげた。見ると孝志が頬を膨らませてこちらに歩いてくる。


「ひどいよ!」
孝志はそう言うと、光恵の座っている前で仁王立ちになった。


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