豹変彼氏~ドラマティックに愛されて~


三池との校正を何回か重ねて、脚本が完成した。正味一ヶ月。書き始めるとあっという間だった。満足そうに頷く三池の顔が、作品の出来を物語っていた。


「向こうが脚本家と一緒に事務所まで来てくれないかっていうんだ。今日の午後の都合はどうだ?」
「はい、大丈夫です」
光恵は頷いた。


脚本は既に事務所に送られ、一週間が経っていた。


不出来だと却下されたらどうしよう。
孝志が読んで、顔をしかめたら?
三池がオッケーでも、孝志が了承するかはわからない。


青山の一等地に立つビル。その三階にダイヤモンドプロモーションはあった。受付で「三池です」と名乗ると、小さな会議室に通された。まだ寒さが厳しい三月初め。部屋は暖房がきいていて、光恵は厚手のコートを脱いで、ほっと一息ついた。


安っぽいパイプ椅子ではない。柔らかな布張りのソファ。一枚板のテーブル。秘書らしき女性が、カップにコーヒーを入れて持って来た。光恵は今まで経験したことのない場所に、心なしか緊張する。隣を見ると、三池も引き締まった顔をしていた。


「お待たせしました」
扉から志賀が入って来た。


三池と光恵は立ち上がって頭を下げる。志賀も優雅に頭を下げ「お座りください」と席を示した。


< 83 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop