きっと、これは

-笠井Side-

 にこりと笑う笑顔が、印象的だった。



 タケ先輩の教室に着いて、すぐに声を掛けようと思った。
 別に二年生の教室に来る事も、声を掛ける事も、どうって事ない。ズカズカと室内に入る事だって簡単に出来たけれど、教室に着いてタケ先輩が隣の女子と話している様子を見ると、どうにも声を掛ける事が憚られた。
 何を話していたのかまでは分からなかったけど、あんな風に笑って話している二人を見ると、何だか声を掛けてはいけない気がしたんだ。
 タケ先輩は、基本的に誰とでも仲良くしているし、女子とも普通に話す。俺ら一年にだって気さくに話してくれるし。
 でも、さっきの隣にいた女子とは何だかいつもと違う気がした。
 何かこう……、特別感? みたいなものを感じたんだ。彼女、かも知れない。
 俺は適当に近くにいた名前も知らない先輩に、タケ先輩を呼んで貰おうと声を掛ける事にした。
 用事って言っても部活の事でちょっと伝える事があっただけだし。
 タケ先輩は俺に気付くと、入って来いと呼んだが、用件が用件だし、何か……彼女の近くに行く事が出来なくて、ここでいいと思わず口をついてしまっていた。
 僅かな俺の動揺に、誰も気付いてはいないだろう。
 俺はタケ先輩に用件を伝え、続けて、「あの人、先輩の彼女ですか?」と尋ねてしまおうかと考えた。
 けど、やめた。
 暫しの躊躇をタケ先輩が不審がらなかったのは救いだ。
 話し終えて、俺は自分の教室に戻ろうとしたその一瞬、彼女を振り返ると、目が、合ってしまった。
 少しだけ垂れた、パッチリとした瞳。何かを紡ぎ掛けた薄ピンクの小さな口唇に、日差しで茶色に染まる、色素の薄い直毛の長い髪の毛。
 可愛い先輩だな、そう思った。
 すぐに視線を逸らされてしまったけれど、一瞬ぶつかった視線と、タケ先輩と話していた時の彼女の笑顔が、俺の中から離れなかった。
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