声を聞くたび、好きになる

 即決とは、落札者が今の最高入札額より高値で商品を買う代わりに、出品者である私にオークションの早期終了を頼む行為だ。

 オークションサイトでは公にお勧めされていない方法だけど、早期終了はルール違反ではないからペナルティ等もない。どうしてもその商品を買いたいという落札者には有利な取り引き方法だし、出品者にとっても損な話ではない。


 今の時点だと、交渉のあった竜の擬人化イラストには三万円の値段がついていて、このまま三日後のオークション終了日を迎えれば最高入札者が三万円でイラストを買ってくれる。普段ならそれで充分なのだけど、今回初めて高額交渉された私は即決するかどうかを迷った。

 十万円。どれだけクオリティーが高いイラストだとしても、素人のイラストにこれだけの値段を出してくれる人は滅多にいない。

 おこづかいほしさにやってきたオークションだけど、流星との関わりがなくなった今、オシャレやアニメ商品にお金を注ぎ込むことはなくなったから金銭欲はない。それなのに、私はこのイラストを猛烈に売りたい気持ちになった。私のイラストに関心を示し、これだけの値段を提示してくれたユーザーさんに好感を抱いたし、自分の作品を高く評価されるという体験に激しく心を揺さぶられたのだ。人生初のことばかり。


 一方、マイナス思考も湧いた。

 オークションを終了したら連絡を絶たれる可能性もあるし(まれに落札者と連絡を取れなくなることもある)、高値買い取りを提示してこちらの反応を楽しむといった質の悪いイタズラかもしれない。

 でも、オークション取引は基本的に落札者の支払いが先に行われる。このユーザーも商品代金は先に振り込んでくれると言っている。大丈夫、変なことにはならないだろう。


 嬉しい気持ちの中にマーブル模様のように絡まるマイナス思考。初めての高額取引。色んな意味でドキドキしながら、私はそのユーザーの交渉に応じることにした。

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