声を聞くたび、好きになる

 ライトノベルのコンクールもイラストレーターへの道と同じく、入賞を果たすのは極めて大変なことらしい。

 戦う場所は違っても、イラストレーターとライトノベル作家さんは同じクリエイター。創作に携わる仲間だ。だからこそ理解できる。作家さんがライトノベルにかけた魂や情熱を……。

 作家さんの大切な作品を汚さないよう、誠心誠意イラストを描いてみせるんだ!


 使命感に燃え上がっていると、スマホに海音からのメールが届いた。

《1日で描き上げるなんて驚いた。あれから体調は大丈夫?無理してないか?》

《大丈夫だよ。むしろ清々しい気分。あ。お母さんが帰ってきたよ。海音に感謝してた。》

《そっか。よかったな。お母さんがいるなら安心だ。》

《海音のおかげで、お母さんとお互いに色々話せたよ。今までより、家が好きになりそう。》

 社内で、海音はどんな顔してメールを送ってくれているんだろう?想像したら、ちょっと幸せな気分になる。

《俺は何もしてないよ。ミユが今まで頑張ったからだと思う。》

 編集者としてだけじゃない。一人の人として私を認めてくれているのがメールからも伝わり、嬉しかった。

《それと、新しい仕事の話、おめでとう。社内でも、ミユはイラスト界のホープだって期待されてる。俺も自分のことみたいに嬉しかった。応援してる。》

《ありがとう。さっそく仕事に取りかかるね!また!》

 お母さんの手料理をたらふく食べたおかげか、やる気がみなぎっている。自分で作ったご飯より、人に作ってもらった物を食べる方が断然力がみなぎる。



 それから私は、出版社の人(主に海音と)画像やメールのやり取りをし、一週間かけてライトノベルのキャラクターイラストを完成させた。

 それから一ヶ月後、劇場版アニメのキャラクター原案の製作も達成した。

 受けている仕事を全て片付け終わった日、編集長から直々に電話がきて、

『こんなに早く、しかもハイクオリティーな作品を出してくれるイラストレーターさんは初めてです!』

 と誉められ、給料単価を上げる方向で契約内容の更新をお願いされた。

 出版社専属のイラストレーターは、フリーのイラストレーターと違い月給制の契約だけど、それでも、給金は決して安くはなかった。それこそ、昔のお母さんみたいに実家を出て一人暮らしをしてもゆとりある生活を送れるほどに。

 それなのに、更に給金を上乗せすると言うのだから、紙川出版は羽振りがいいのだなとため息混じりに感想を漏らすしかない。さすが、有名出版社。

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