声を聞くたび、好きになる
オークションでお小遣いを稼いでいた頃が、早くも懐かしい。
人生初の仕事。二つの依頼をこなし報酬を手にする頃、私を取り巻く環境はがらりと変わっていた。
ペンネーム『ミユ』として活躍する私の評価は、瞬く間に出版業界に広がり、様々な出版社からスカウトを受けるようになる。
なぜそこまで話題になったのかと言うと、先日イラストを担当したライトノベルが爆発的な人気を得て、早くも映画化が決まったからだ。
その人気はライトノベルを書いた作家さんの才能が引き寄せたものだと私は思っていたけど、その作家さんは私のイラストが良かったから作品が話題になったと考えているそうだ。
イメージ通りのキャラクター。
今にも動き出しそうな躍動感溢れるタッチ。
繊細な感情描写がプロ以上に上手い――。
新人だとは思えない秀逸の作品。
私のイラストは信じられないくらい高い評価を受けた。
紙川出版が年に1回発行している『永久保存版☆話題のイラスト10選!!』という画集にも、私の作品が掲載されることになった。
去年まではこの画集を買う側の人間だったのに、今は、サンプルとしてタダでこれをもらえてしまう。
『大手出版社に所属しているのだから売れて当然だ』という風当たりの強い評価もあるけど、悪い評価が私の耳に行かないよう、海音があちこちで動いているらしい。編集長から電話で言われた。
『君の実力は、ライバルにとって脅威でもあるからね。辛辣(しんらつ)な評価を目にして心折れることもあるかもしれないけど、芹澤君の存在を忘れないでやってね』
メールや電話でしょっちゅう話しているのに、海音はそんなこと一言も言ってなかった。
編集長にそういった話を聞いて、私はますます、海音への信頼を深めた。
深さを増すのは信頼感だけではない。かつて流星にだけ注がれていた恋心も、だ――。
仕事が忙しく、海を見たあの日以来会っていないけど、海音とは仕事を通していつも繋がっている。
そばには居られないけど、心は隣にいる、そんな気がしている。
忙しいせい?
人間関係に新しい変化が訪れたせい?
流星のことを考える暇などないということに、私は今さらながら気付いたのだった。
《5 行き着いた深愛(しんあい)(終)》