10円玉、消えた
くそっ、なんてこった。
母さんもそうだけど、カッちゃんも俺を裏切りやがった。
俺が店を継ぐ気があるってのを知ってるくせに。
やっぱあいつは信用できないヤツだった。
またしても薫のカンが当たっちまったようだ。
まあいいや、こんな店。

これで俺のラーメン屋の道は閉ざされた。
あの爺さんの言う通りなら、あとは会社員になるしか成功の道はないってことだ。

会社員か…
つまらない人生になりそうだな。
やっぱり嫌だ。
会社員になるなんて。
たとえそれで成功するとしても、俺は他の道を選びたい。

やっぱり俺には漫画しかないんだ。
よし、一丁やってやる!



「え!ホントに譲っちゃったんだ、あの人に」
竜太郎から店のことを告げられた薫は、そう言って嘆く。

「全部薫の言った通りになっちまったよ。カッちゃんもとんだ裏切り野郎だ」
竜太郎は呆れ顔を見せた。

「お店継げないんだったら、竜太郎はどうすんの?」

「東京に行って働きながら漫画家を目指すさ。あんな家、一日も早く出たいからね」

「そっか、なら私も東京行こっかな」

「ああ、卒業したら一緒に行こうぜ、薫」

「うん」
薫は愛らしい笑みを浮かべた。



< 114 / 205 >

この作品をシェア

pagetop