10円玉、消えた
今度は竜太郎が呆れ顔だ。
「カッちゃんカッちゃんって、そんなにカッちゃんが大事なのかよ」

すると幸子が声を張り上げた。
「何言ってんだい!この店救ってくれたのカッちゃんだろ。その恩を返すのは当たり前じゃないか!」

そんなの綺麗事だ、単にカッちゃんにのぼせ上がってるだけじゃないか、と思いながら竜太郎は黙って下を向いた。

「とにかく山村さんもちゃんと了承してくれてるし、来年からはこの『らあめん堂』はカッちゃんのもの。わかったね」

「じゃ俺はもうこの店継げないってことだよな」
と竜太郎は憮然と言う。

「そんなことないさ。いざとなったら今度はカッちゃんから譲ってもらえばいいんだから」

「へっ、もうカッちゃんの店なんかいらねえよ」
竜太郎は言葉を吐き捨てた。

幸子はカッとなる。
「なんだいその言い方は!」

すると竜太郎はスクッと立ち上がった。
「こんな店、二人で仲良くやるなり潰すなり、もう勝手にやれよ!」

捨て台詞をぶちまけて、竜太郎はサッサと二階へ上がっていく。

親に対してこんなに声を荒げた竜太郎は初めてで、幸子にはやはりショックだった。
だが、杉田への店の譲渡をやめる気など最早なかった。



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