10円玉、消えた
ある日、幸子が買い物へ出たのを見計らって、杉田が竜太郎に声を掛けた。
「すまんなリュウちゃん。今回のこと」
「いいよ、別に」
竜太郎は杉田と視線を合わせずに言う。
「何年かして、リュウちゃんがこの店やりたいってときにはすぐ譲るからさ」
「こんな店、俺興味ないから。それよりお袋と仲良くやってればいいじゃん」
皮肉をいっぱい込めてそう言うと、竜太郎は二階へ姿を消した。
年が明けて『らあめん堂』は正式に杉田のものとなった。
竜太郎の強い要望により、家と店の境目には大きな仕切り板が取り付けられた。
つまり壁が出来たのである。
これで家と店は完全に分断。
店に出るには、勝手口から一旦外に出て、店の出入口側に回らねばならない。
不便だが仕方ないな、と幸子は思った。
商店街では、当然この『らあめん堂』の新展開で話題持ちきり。
昨年の同時期は幸子と杉田の噂が出たものの、なにせプロ野球の“江川問題”が起こってたため、『らあめん堂』の話題は完全に隅に追いやられていたのだ。
この日も菓子屋・靴屋・煙草屋の“雑談好きトリオ”が集まる。
冬なので外での立ち話というわけにはいかず、皆靴屋に集結した。
「すまんなリュウちゃん。今回のこと」
「いいよ、別に」
竜太郎は杉田と視線を合わせずに言う。
「何年かして、リュウちゃんがこの店やりたいってときにはすぐ譲るからさ」
「こんな店、俺興味ないから。それよりお袋と仲良くやってればいいじゃん」
皮肉をいっぱい込めてそう言うと、竜太郎は二階へ姿を消した。
年が明けて『らあめん堂』は正式に杉田のものとなった。
竜太郎の強い要望により、家と店の境目には大きな仕切り板が取り付けられた。
つまり壁が出来たのである。
これで家と店は完全に分断。
店に出るには、勝手口から一旦外に出て、店の出入口側に回らねばならない。
不便だが仕方ないな、と幸子は思った。
商店街では、当然この『らあめん堂』の新展開で話題持ちきり。
昨年の同時期は幸子と杉田の噂が出たものの、なにせプロ野球の“江川問題”が起こってたため、『らあめん堂』の話題は完全に隅に追いやられていたのだ。
この日も菓子屋・靴屋・煙草屋の“雑談好きトリオ”が集まる。
冬なので外での立ち話というわけにはいかず、皆靴屋に集結した。