10円玉、消えた
「『らあめん堂』はもうカッちゃんの店なんだってな」

「じゃサッちゃんは単なる従業員か。バカだなあ、なんで譲っちまったのかね。経営者のままの方が儲かるのによ」

「そりゃ若い男の魅力に負けちまったんだろ」

「でも家賃は貰うようにしてんだろ?」

「いや、それがな、どうやらサッちゃんがタダでいいって言ってるらしいぜ」

「ますますバカだな、サッちゃんは」

「リュウちゃんはどうなるんだ?」

「当然ラーメン屋なんてやらねえだろうよ。大学でも行って、後は普通の会社員にでもなるんじゃねえの」

「いまもしゲンさんが帰って来たら大変なことになるよな」

「どうかな?逃げた立場だから偉そうなことは言えねえよな」

「まあ何にしても、若い男に溺れた女ってのは怖いぜ」

「お前んとこも気ぃつけろよ。カミさんが突然若い男連れて来て“今日からこの二人で店やるから、あんた出てって”なんて言いかねねえぜ」

「へっ、そんなのあり得ねえよ。ウチのカカアじゃ若い男に見向きもされねえからな。ウチは心配ナシだ」

「そんなのわからねえって。いまの若いヤツぁ変わり者が多いからよ」

「おい、そこまで言うことはねえだろ」


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