10円玉、消えた
「だったら昼飯は家で食え」

「まあ、別にいいけど…」

「昼は俺がラーメン作ってやるからよ」

「いいよあんた、ご飯くらい作るから」幸子が言う。

「いや、ほら、長いこと殆ど毎日ラーメン作ってただろ。2日も空くと手か寂しくてな。それに明日のための肩慣らしにもなるしよ」

「じゃあ久々に父さんのラーメン食べさせてもらうか。なあ母さん」

「そうだね。どのくらい腕が老いぼれたか見ものだね」
幸子はまた憎まれ口を叩く。

「けっ、ほざいてろよ」

竜太郎と幸子は顔を見合わせて笑う。

「ちょっくら材料でも買ってくらぁ。幸子、自転車借りるぜ」

「あいよ」

源太郎は最寄りのスーパーへ急いで向かった。



スーパーから帰って来ると、源太郎は台所で黙々とラーメンスープを作り始めた。
麺は既製品に頼らなければならないが、スープは材料を使ってじっくり作り上げようとしていたのだ。

「あんた、なんか手伝うかい?」
幸子が源太郎に声を掛ける。

「のんびりTVでも観てろよ。老いぼれのお前がいちゃかえって足手まといだ」
今度は源太郎が憎まれ口を叩く。

「老いぼれはどっちだよ、まったく」
そう言いながら幸子は笑った。


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