10円玉、消えた
老人はニコリとする。
「その通りじゃ。彼がもし占いをやっておったら、結果は“自転車屋”じゃ」

「やっぱり金が儲かることが“成功”とは限らないんですね」

「さよう。じゃが彼は5年先には商売上でも成功する」

「あんな寂れた町にいてもですか?」

老人は頷く。
「5年後にはあの駅に駅ビルが建つ。市の開発計画か何かで、あの町は急速に発展するんじゃ。じゃから君も、ラーメン屋はあの場所でやりなさい」

「ありがとうございます、そんなことまで教えて頂いて」

「実はの、わしゃ君ら親子には特別な思い入れがあってな。お父さんが何度もわしに食ってかかったじゃろ。あんなのは初めてだし、それに親子揃って10円玉をなくすなんて、前代未聞のことじゃ。じゃから余計に君らを放っておけなくての」

竜太郎は照れ笑いを浮かべる。

「わしゃ本来なら、万人に公平な立場でいなければならないんじゃがの、君らにはついそうしてしまったんじゃ」

「ホントに三間坂さんには何てお礼を言えばいいか…」
竜太郎は神妙な面持ちで言う。

「そんな礼には及ばんよ。それより竜太郎君、これからが本当の人生の勝負じゃ。しっかりと頑張るんじゃぞ」


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