10円玉、消えた
そのとき竜太郎は、ふと何気にリビングのTV画面に目をやった。
TVは点けていないため、そこに反射した自分の姿がハッキリと見える。

ところが、反射して映っているのは自分だけで、ソファに座る老人の姿がそこにない。
竜太郎は仰天した。

「さ、三間坂さん。あ、あんたの姿がそこに映ってない」

老人はどれどれとTV画面を見る。
「ハッハッハッ、そりゃ当然じゃ。わしは人間とは別次元の存在じゃからの」

「べ、別次元?すると普通の人間には見えないんですか?」

「いや、見える者はたくさんおる。お父さんもそうだし、あの自転車屋もそうじゃろ。心が汚れてない者には見えるんじゃ」

「そうだったんですか」

「但しわしゃ幽霊などではない。もう君にはだいたい想像がつくじゃろ」

「ええ、だいたいは…。あ、ところでその自転車屋のタカさんなんですが、覚えてますか?」

「もちろん。10円玉占いをやらなかったんじゃろ、彼は」

「本人には言いませんから、タカさんのいま歩いてる道が正しいかどうか、教えてくれませんか」

「竜太郎君はどう思うんじゃ?」

「あんなに充実した毎日を送ってますからね、タカさんは。間違ってはいないと思います」


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