10円玉、消えた
やがて片付けが全て終わる。
幸子はコップ一杯の水を一気に飲み干した。
どうやら喉がカラカラだったようだ。

「竜太郎、ありがとう」
と幸子が言う。
いくらか明るい表情になっていた。

竜太郎は、気になってたことを幸子に尋ねることにした。
「母さん、ちょっと聞きたいんだけどさ」

「何?」

「俺、高校に行けるかな?」

「何言ってんだい。あんたはそんなに成績が悪くないんだから大丈夫。あとは入試本番で頑張るだけよ」

「違う違う、そんなんじやなくてさ…」

「じゃあ何だい?」
幸子はやや苛立った様子だ。

竜太郎は一瞬聞くのをためらったが、もう後には引けないなと思った。
「経済的にどうかってことさ」

すると幸子は笑みを浮かべながら言った。
「なんだそんなことだったの。あんたは下らん心配しなくていいんだよ。息子一人高校に行かせられるくらいのお金、ちゃんとあるんだから」

「ごめん、ヘンなこと聞いちゃって」

「まあ店がこんなだし、父さんがあんな遊び呆けてるんじゃ、あんたが心配するのも無理はないけどね」

そして幸子はふぅ~っと一息つくと、近くの椅子に腰を下ろした。
まだ何か言いたそうな雰囲気である。

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