甘い唇は何を囁くか
愚かで哀れな自らに、自嘲してシスカは本来の自分に戻った。

いつしか、あの夜の訪問者のことも忘れ、ようやく普通の暮らしに慣れてきた頃、シスカは髪の色が生え際から白くなりはじめていることに気が付いた。

シスカの元の髪色は母譲りのマロンブラウンだったが、変わりはじめた髪色は、白髪と呼ぶには光沢があり、まるで針先のように輝いて見える。

その髪色に、忘れかけていたあの夜のことを思い出す。

あの美しい妖魔ーーあの姿を…。

まさかー!

何を馬鹿な妄想をと、自分を罵倒して鏡に映る姿を確かめた。

何も変わらない。

いつもの己の姿ではないか。

ーあなたをヴァンパイアにー

ばかな!ー世迷言だ。

否、それさえも夢。

髪の色素が抜ければ、色が薄くなることもあるだろう。

それだけの話ー。
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