甘い唇は何を囁くか
眉間にシワを寄せた悲痛なシスカの眼差しに、口先だけじゃダメなんだと思った。

ううん…。

自分でもそう思う。

(信じてないんだろう?)

口にしなくても、シスカの心が読めた。

「シスカ…。」

遼子は首を振ってシスカの腕を掴んだ。

だってー、吸血鬼よ…?

そんな、映画か本の中でしか聞きなれない代名詞を出されても、まったくピンとこなくても仕方ないんじゃない…?

「だから言っただろう…。」

シスカは悲しげに瞼を伏せて、身体を離そうとする。

遼子は、シスカの腕を掴んだ手に力を入れて言った。

「待ってよ、まだ何にも言ってないでしょ?」

「言っただろう、口先だけの信じる、というセリフを。」

ズキリ

確かに胸が痛い。

けど、こんな傷ついた顔をさせたままにはできない。

「確かに…それは悪かったわよ…。信じてる、っていうのは、ちょっと語弊があると私も思う。正確には半信半疑なの。」

だって、それは仕方のないことだと思う。

ただでさえ、普通の32才。

なんの取り柄もなく、なんの特別な事もなく今迄生きてきて、目の前に現れた人がヴァンパイアです、と言われたって…。

夢みたいすぎて言葉が出ない。

けど、こんなに純粋で汚れのない涙を流しながら、嘘を言うような人じゃない、ってことも分かるのよ…。

だてに三十路じゃないんだから。

遼子は怪訝げに見下ろすシスカの顔を見つめて真剣な眼差しを返して言った。

「あなたを愛してる、あなたが何であっても。この気持ちは変わらないわ。」

「遼子…。」

「ね、教えて?もっと知りたい。」



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