甘い唇は何を囁くか
塞いだ唇から、シスカの中に何かが流れてくる。

甘く、喉を潤し、空腹を満たす何かが…。

言いようのない…美味…。

「は…。」

離れがたいと渋る唇をゆっくりと離す。

女の眼は蕩けたようにトロンとなり、シスカを呆然と見つめている。

シスカは舌なめずりして女から、視線をはずして周囲の女を見回した。

1人。2人…。

其処にいるのは、目の前の女を含めて5人の女。

そっと自身の上着に手をかけて、シスカは無造作に脱ぎ捨てた。

鍛えられた隆々とした肉体に、女たちの視線が集まる。

捕らえた獲物は、もう逃れる事はできないとシスカは分かっていた。

(もう、…もう待てない。)

これは―、何だ…。

シスカは女に手を伸ばし、抱き寄せると再び唇を塞いだ。

「はぁ…」

零れる熱い吐息に、シスカは自分の中で叫んだ。

(やめろ!)

やおら、女を抱き上げるとベッドルームへと歩き出す。

(嫌だ、やめろ…、何を…何をする気だ!)

本当は分かっている。

振り返り、残された4人の女たちに命じる。

「来い―。」

もう、逃げることなどできない。

まるで呪縛にかかったように、女たちは従順にそれに倣う。

ほら…もう俺のものだ。

(嫌だ、嫌だ!)

こんな―、獣のような…。

女を組み敷き、シスカは嗚呼と呻いた。

十分に熱された女の身体から香る、芳醇な甘い香りがきつくなる。

キングサイズのベッドに横たわる5人の女の熱い裸体をかき寄せて、
シスカは一人ずつ、女の気が失せるまで、その首筋に牙を立て続けた。

抗うことはできない―。

獰猛な獣が、野生に目覚めたのだ。

(お前も同じ―。ヴァンパイアになった―。)

もう記憶の片隅に追いやられていた魔物の言葉が浮かんだが、
喉を通っていく紅いワインの味が、全てを押し流していく。

戻れない―。

(イ…ヤ…ダ…)

抗えない―。

(ヤ…メ…ロ…)

オマエハ マモノニ ナッタ ノダ

女の身体の中に、己自身を穿ち、恍惚の中に全てを放つ。

シスカは、歯をかみ締めて眉間を絞った。

燃える―、燃えてしまう―。

俺は…俺は…。
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