甘い唇は何を囁くか
「嗚呼っ」

身体の下で名も知らぬ女が高い声を上げて喘いだ。

シスカは激しく突き上げて、女の口を手で塞いだ。

何故か、激しい欲情が込み上げてくる。

それなのに、この女の声が煩わしくてならない。

とっとと食事を終わらせようと首筋に歯を立てた。

ワインのように透明な少し辛みのある味で、ごくりと喉に通すとまだ餓えているのが分かった。

「は、あ…あ…」

女の身体が、恍惚に震えている。

そうすると香りは増し、味も少し濃くなる。

だが、まだ足りない。

気の失せた女から、身体を離してベッドから離れる。

何故だー。

この女は決して見目が悪いわけではない。

ブロンドの髪にしなやかで豊満な肉体は、人間の男でも気になるだろう。

それを好きなだけ自由に貪ったというのにー、何故まだ足りない…?

シスカは女にシーツを被せてその姿を隠した。

見たくないーー。

この目が見たいと望んでいるのは、これじゃない。。

首を振り、服を着てホテルを出る。

昨夜、食べた女どもから奉じられた札束がズボンのポケットに無造作に突っ込まれていたので、革財布に綺麗に入れ替えた。

外に出ると、日はすでに高く、日差しが目に刺す。

サングラスをかけてシスカはどこへともなく歩き出した。

その時だったーーー。
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