甘い唇は何を囁くか
あの人は、結局誰様なんだろうか。

腰砕けから開放されて、ようやく立ち上がることができるまで、あの人が立ち去ってから5分は経っていたと思う。

生娘でもあるまいし、情けないし恥ずかしいけれど、仕方ない。

それが事実だから。

結局部屋着用のラフな洋服に着替えて、遼子は座る余裕もなくて部屋の中をぐるぐるとそれは円を描くように歩き回っていた。

あの人は、ただの好奇心で遼子に手を出そうとしたに違いない。

あのお前みたいな女が、と聞こえない声が聞こえてくるような視線、はじめて見たし、実際にそんな声が聞こえてきたような気がした。

あれは、きっと高貴なお方に違いない。

富裕層っていうの?

セレブ感マンサイだし…、あのキスの上手さは半端なく只者じゃない。

けど、どっかの大きな会社の若社長とか、ボンボンのホワッとした雰囲気はまったくないな。

どっちかって言うと、何て言うの…?

殺し屋とか、マフィアとか、そうそう、そっちだ!

あの危険な雰囲気、まさにそっち系!

そこまで考えて、ベッドにどかっと腰掛けると、ああ~っと声を上げた。

「ない、ないない!ないわ!」

そうかもしれないけど、そんな人と恋愛する自分は想像できない。

とてもじゃないけど、思い浮かべられない。

色んな意味で、ありえない。

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