甘い唇は何を囁くか
湧き上がる欲望、微かな躊躇いの中に、暴力的な自分が眼を覚ました。

シスカは牙の疼きに逆らう術もなく、街に出るとすぐに見目の良い女を捕まえた。

自分が、何を求めているのか分からないわけがない。

血だ。

熱く火照る肉体を自分の下に組み敷き、あられもない姿にして女のよがり声を聞く。

そして、濃濃になった血潮が手のひらで感じるほど熱くなったら、その首筋に歯を立てるのだ。

口付けだけでも、十分なほどの精が、その血潮を通せばより深く身体の中を廻っていく。

恍惚の中に、渇きは癒され、ようやく飢えから開放されるのだ。

「お前が欲しい」

その言葉に逆らうことができる女などいない。

どこにもいない。

路地に連れ込み、こんな場所だというのに、シスカは名前も知らぬ女の唇を強引に塞いだ。

腕を絡めとり、煉瓦の壁に女の身体を押し付ける。

嫌がるそぶりも、頬を伝う涙も、一瞬のこと。

すぐに媚びた視線に変わり、甘い吐息を漏らし始める。

スカートの中に手を入れ、ふとももに指を這わすと女は躊躇った声で言った。

「え、ここで…?」

シスカはかまわず何も言わないまま下ごしらえを続けていく。

どうだっていい。

かまうことはない。

この女はただの苛立ち紛れに摘むチーズのようなもの。

もはや、スイーツでも何でもない。

シスカはこんな路上で、まだ日も高いうちから、こんな女を淫らなまでに開いていきながら心の中で言った。

『名前など関係ない。こうすれば…女など誰でも。』

嗚呼…。

シスカは心臓を締め付ける苦痛に眉をしかめた。

女の熱を味わいながら弄っても、何故か消えない喉の渇き。

「ほ…欲しい…。」

シスカは苦しげに息を吐いて呟いた。

その碧眼が、女を射る。

女は、赤い顔で熱い息を漏らしながら呆然としている。

だが、確実にシスカの手中に落ちている。

荒々しく猛々しい自分を解放して、女を壁に打ち付けた。

牙が乾いている。

こんなに乱暴に抱いても―消えない…。

シスカはたまらず女の首筋にかぶりついた。

その血はドロドロとして、まるで淀んだ自分の心を映しているようだった。

そう―、感じた。




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