ヴァンタン・二十歳の誕生日
 だから此処に置いたままになっている……
筈だった。


だけど影も形もない。
あの鏡が全てを知っているのに……


パパは私のワガママなおねだりを無理をしてまで叶えてくれた。

だからこそパパに会いたいに……

あの鏡は今何処にあるのだろうか?


まずそれから探さなくてはいけない。
そう思った。




 屋根裏部屋を隈無く探してみた。
でも魔法の鏡は何処にも無かった。

その代わりにガラスの小箱が見つかった。

それは今まで一度も見たことのない物だった。


見つけたきっかけは満月だった。

トップライドから入ってきた月の光が、その存在を示すかのように輝かせていたからだった。

私はその中にリボンを見つけた。
チビとお揃いのリボンを。


(どうしよう。あの鏡がないとパパを助けに行けない!)

リボンの事は気になる。

でも今は鏡探しが先決だった。

無ければ冒険に行けなくなるからだった。




 目を閉じて十年前の事を思い出してみる。
お・ね・え・さんとチビの二人は、確かに冒険した筈だった。

あの鏡の中を……


(何処にあるんだろう? 何処にやったのだろう? 何処に行けば良いのだろう? お願い誰かー。お願いパパを助けて!)

思いは其処へ行き着いた。




 「ママー。パパの鏡知らない?」
最後の手段だった。
私はチビの振りをして母の部屋に声を掛けた。


『どうしたの? 興奮して眠れない?』
此処へ来る前に浴室でのやり取りした姿を思い出す。

母の声に変わりはなかった。

ついさっきまでいた時代が懐かしい。


「そうなの。もう一度あの鏡を見たいと思って」

私は又聞けた母の声に思わず涙ぐんでいた。


『でもあれって本当に魔法の鏡なの?』


「パパがそう言っていたから、間違いないと思うよ」


『ママねー、あれは絵だと思ってリビングに掛けたけど……だって怖がって居たでしょう?』


「でも、パパのお土産だし……それに、もう屋根裏部屋で寝ないから大丈夫」
私は精一杯の嘘をついた。

だってこれから魔法の鏡を探検するなんて言える筈がない。


母の言った通りだった。
私を写したまま魔法の鏡は動かなかった。
だから絵だと思ったらしかった。
私がその絵を見て怖がったのを知っていて、そうしてくれていたのだった。




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