ヴァンタン・二十歳の誕生日
魔法の鏡
 無理やり起こした後、二人で屋根裏部屋に行く。

だからチビは不機嫌だ。


そりゃあそうだ。
魔法の鏡が怖くて、屋根裏部屋から逃げ出したばかりの筈だ。


そんな時に……
それも就寝中にいきなり……
見ず知らずの年上の女の言いなり……


チビでなくてもビビる筈だった。




 チビは夢でも見ていると思っているのか、屋根裏部屋のベッドでいつの間にか眠っていた。


でも却って、パパのお土産の鏡を探すには良いチャンスだと思った。


それは私がねだった物だった。


嘘か本当か。
お伽話に出てくる魔法の鏡だった。


年に数回しか会えないからなのか。
親子の時間を大切にしてくれたパパ。

ベッドでの絵本の読み聞かせは、パパが担当になる。

小学生だと言うのに甘えん坊で、やっと逢えたパパを独り占めしたかった。
それには、寝付くまで一緒に居られるこの時間が最適だったのだ。




 『パパ……魔法の鏡って本当にあるのかな?』


『あるって聞いたよ』


『もしあったら欲しいな』

パパの意外な言葉に私は驚いて、それをお土産に頼んでいたのだった。


そうだ。
確かに……
あの鏡は私が頼んだ魔法の鏡なのだ。


思い出した……
僅かながらに。




 それは摩訶不思議な鏡だった。

人物を写し出したらそのまま、まるで絵のように動かない。

一旦その状態になると、其処から動いてもずっとその人を映し出している。


まるでその人に執着するかのように。


私は、私を写したままの鏡が怖くなった。

だから母にすがり付いて泣いていた。


『これが鏡? あなた騙されたのと違うの』
母も呆れていた。


『可哀想に。でももう泣いちゃ駄目よ』
母は泣き虫の私を抱き締めてくれていた。


『いや、船の上ではちゃんと動いていたよ』
パパも反撃する。


魔法の鏡はこのようにして我が家にやって来たのだった。




 そう、外国航路の船長だったパパの土産だった。


『頼まれた、魔法の鏡だそうだ。言っておくが本物だぞ』
そう言いながら、屋根裏部屋で手渡してくれた。


(そんな馬鹿な!?)

そう思った。


でも私は確かに、その鏡が欲しいとねだっていた。

これから航海に出ようとしていたパパに……

でも本物だと言うパパの言葉が怖くて、それ以上見なかった。



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