ヴァンタン・二十歳の誕生日
幽霊船
 知っている道の反対を行く。それ以外方法はない。

解っているけど、頭がこんがらがる。


「えーと、お茶碗を持つ方が左」
そう言いながら、お箸で食べる真似をする。


「おねえさん。それは右手だよ」
チビが素早く突っ込みを入れる。


解っていながらやってしまう。
頭が悪いせいもあるけれど、鏡の中はやはり迷路だった。




 鏡の世界に手間取りながら、どうにかこうにかたどり着いた海。


出来の悪い頭で必死になって考えた末に、やっとここまで来られたのだ。


十年前にお・ね・え・さんと探検した鏡の中にいたパパ。

詳しい経緯良くは覚えていない……


それでも……やはりパパの手掛かりは海しかないのだ。

だってパパは外国航路の船長なのだから。


パパは客船が海賊らしき船に襲われた事で、行方不明になっていたのだから。


(此処しか……この海しかない)

マジでそう思っていた。




 まるで万歳のコントのような調子で、其処まで来た私達。

そんな二人を待っていた物は、小さな手漕ぎボートだった。

他には何もなかった。


「此処海だよね?」
私が言った。


「なんで海に船が無いの?」
私は震えていた。


「これで来いって言うことだねきっと」
珍しくチビが言う。


「そうみたいだね」


「パパ、きっと待っているね。早く行こうよ」

チビは積極的だった。


(チビ……アンタどうかしてる。だって泳げないんだろー)


そうなのだ。
私は泳ぎが超苦手だったのだ。


何時か行ったアトラクションだと思っていた。
そう遊園地の海エリアの……

だから楽しい思い出しか覚えていなかったのか?


(今日私達が助けに行くことをパパは知っているのだろうか? パパ解るかな私が……)


心配だった。


私がパパを忘れていたように、パパも私のことなど忘れてしまったのではないだろうかと。


いやパパは私のことなど知らないはずだ。
だってこの時代に私はまだ居ないのだから。


私ははしゃいでいるチビの目を避けるように、陰で泣いていた。


もっと心配なこと……


ボートが怖かった……




 手漕ぎボートで荒海に乗り出す。


(どうせ鏡の中だ)

私は高をくくった私。


(転覆なんてある筈もない)

そう思っていた。


その時にはもう相当の体力を使い果たしていたからだ。



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