ヴァンタン・二十歳の誕生日
 「ねえ、どうしてそんなに詳しいの?」


「兄貴の受け売りかな? ヨーロッパではエペが盛んだから敵わないって知っているの。それでもエペをやるの」

雅のお兄さんとは面識はない。だけど、自分の意志を貫いている人だと思った。


「兄貴はそれで女性を守りたいんだって。だから一生懸命なのよ。きっと頼りにされる存在になりたいんだと思うよ」


「幸せだね。雅のお兄さんの恋人は……」

私はそう思っていた。




 「フルーレは初心者向きなんだって。だから兄貴もそれから始めたの。大体の女性や子供はそれからのそうよ。フルーレとエペは突くしかないの。エペの剣が一番重くて攻撃出来る箇所が全身だから面白いんだって。サーブルで攻撃出来るのは上半身で、突くだけじゃなくて斬るも入るの。ほら騎士が持つ剣をサーベルって言うでしょう? 私はサーブルの語源はこれじゃないかと思っているの」


「確かにそれはあるね。オマケに突くと斬るも入るのだったらね」


「でしょう?」

雅はヤケに嬉しそうだった。


「でも不思議、初めてって感覚ないの。私きっと何処かでこの競技見ているのかも知れないな」
私は感じたままを素直に雅に伝えていた。




 雅はそんな私をそっとしておいてくれた。
だからパンフレットを見ながらあれこれ考えることが出来たのだった。


「雅、さっきフルーレは剣が軽いって言っていたけどサーブルの方が小さいと思うんだけど」


「確かに……」
雅はパンフレットに記載されている剣の種類の項目を見て笑っていた。


「フルーレが百十センチ以下でサーブルが百五センチ以下だもの。でもフルーレと同じ長さのエペが一番重いのね」


「そう、だから兄貴はやっているの。サーブルと違って突くだけだけど」


「確かフルーレも突くだけって言ってたわよね?」




 「過って女子はフルーレのみだったそうよ。今ではエペやサーブルもあるみたいだけどね。兄貴が始めた頃にはなかったの。だから兄貴は好きな女の子を守るためにエペを始めたの」


「ふーん、そうなんだ」
私は他人事みたいに雅の言葉を聞いていた。


「高校時代はインターハイに出場して準優勝したのよ。県予選では個人で四位まで八月上旬に開催される地区大会に出られるの。兄貴は其処までだったけど、上位の人は十月の国体に出場出来るんだって。その夢を今は叶えようとしているの」

雅はそう言いながらアリーナを見下ろしていた。


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