ヴァンタン・二十歳の誕生日
 「それって此処に閉じ込められるってこと!?」

パパが頷く。


「鏡が壊れたら、出口が閉ざされるってことだ」

私は改めて、操舵室の窓に映し出された魔法の鏡を見つめた。


それは既にヒビ割れて不気味な影を落としていた。


「ねえパパ。何とかならないの!?」
珍しくチビがパパに噛み付いた。


「そう言えば一つだけ……聞いたことがある」


私はパパの一言を待った。

でもパパはなかなか口を開かなかった。




 「それは……、乙女の鮮血だ」
パパはやっと言った。


(えっ!? 何それ?)

私はパパの一言で又固まった。


「それは……乙女の鮮血を鏡に注ぐ……。っていうことだった」


「乙女の鮮血!?」

驚き声と共に、私はチビと顔を見合わせた。


「えーっ、どっちの血?」

そう。
二人共乙女だった。


(そうかだから……私は女子会で……だから乙女のままだったのか? そうだ、きっとこの日の為に……)


「解らない。パパはただ乙女の鮮血だと聞いただけだった」

パパは肩をがっくりと落としていた。


「きっと私よ」
チビが言う。


「だってパパの子供は私だもん。パパの為だったら、血だってあげちゃうよ」
チビはウインクしていた。


(不思議だった。何故女子会オンリーだったのかが? このために……?)

それしか考えられない。


(だから大人になることに躊躇いがあったのか? 大人になりたくなかったのは、パパを助けるためだったのか? 雅に聞いて貰いたかった。メグにもベスにも聞いて貰いたかった。でももう会えなくなるかも知れない。そんなの絶対にイヤだ! 何とかしなくちや! このままじゃいけない。お願い。誰か助けて!)




 私は、ゆっくりとキャプテンバッドの骸骨に目を移した。


キャプテンバッドの指先が僅かに動いていた。

私は目配せをして、パパにこのことを知らせた。


そっと操舵室の窓を見た。


「うわっー!?」


「ひえぇー!?」




 その時私達が目にした光景は……


操舵室の窓にへばり付いた骸骨だった。



 大型客船内で身を潜めていた骸骨達が、ヒビ割れた鏡の魔力によって次々と再生して行く。


そして、私達のいる操舵室になだれ込んで来る。

それぞれの手に、あの武器を持って……




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