よりみち喫茶


「今はわからなくても、いつかきっとわかるよ」


だから、この言葉で今は納得してもらうしかない。

こちらを見上げる真っ直ぐな瞳を見つめ返して微笑むと、その小さな体を包み込むように優しく抱きしめる。

温かくて、柔らかくて、小さくてもしっかりと生きているその体を。


「ここはね、La Pace(ラ・パーチェ)」

「らぱーちぇ……?」


耳元で聞こえた不思議な呟きを、首を傾げながらも復唱する姿が、可愛らしく愛おしい。

体を離してもう一度視線を合わせると、今度はピンっと人差し指を立てる。

スーっと動いた黒目が指の先を見つめることで、自然とより目になったその顔に、思わずクスリと笑みをこぼす。


「“平和”って意味なのよ。La Pace(ラ・パーチェ)、これから始める喫茶店の名前。わたしと、はるくんのお店」


真ん中によっていた目が元の位置に戻ると、その顔に驚きが広がっていく。
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