よりみち喫茶
喫茶店で寄り道はいかが


「うん、やっぱり素敵!」


運命の出会いとも言うべきあの日の出会いからしばらく経ってから、再び訪れた路地裏で改まって見上げる建物は、あの日と同じに輝いて見えた。


「そうかな……古くてボロボロで、この間テレビで見たお化け屋敷にちょっと似てる」


ビクビクと体を強ばらせて、わたしの後ろに隠れて僅かに顔を覗かせる小さな頭に、ポンっと優しく手を載せる。


「そうね、確かにちょっと似ているかも。でも、この古さがいいのよ。こういうの、趣があるって言うの」


そっとこちらを伺うように見上げる瞳には、不安そうな光が揺れている。


「でも……もっと目立つところの方が、お客さんいっぱいくるし」


確かに、お店をやるにあたってはとても重要なことだ。

でもわたしは、わたしが感じたものを大切にしたい。

しゃがみこんで目線を合わせると、笑顔で優しく頭を撫でる。


「わたしはね、ここがいいの。ここでないと、ダメなのよ」


わたしの中にあるものを説明してあげたいのだけれど、思っている以上にうまく言葉にできなくて、クエスチョンマークをたくさん浮かべた顔を見て苦笑する。
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