甘い恋飯は残業後に


*


停職三か月を言い渡されていた二課の三浦係長が、どうやら会社を辞めるらしいという話が一課にも伝わってきた。

確かにあんなことをしたのだから、停職処分が解けたとしても、余程面の皮が厚くなければ会社には来づらいだろう。

難波さんのほうはといえば、彼があの晩言っていたとおり『訓告処分』に決まった。

これでひとまず一件落着、今までと変わらない日常が戻ってくるかと思いきや――予想外のことが起きた。


難波さんは何と、部長の権限は副部長に委譲して、自分は『Caro』へ出向扱いにしてほしいと上層部へ申し出たのだ。

この件に関しては全く聞かされていなかったから、わたしは心底驚いた。恐らく猛反対されると思ったのだろう。

最初は上層部も難色を示していたようだけれど、難波さんの熱意に負け、技術指導という名目で部長職はそのままに、期限付きの一時的な出向という扱いに落ち着いた。

前代未聞のことに、社内ではしばらく「やっぱり難波さんは変わり者だ」という言葉が囁かれていた。

わたしはといえば――。


「桑原さん、二卓バッシングお願いします」

「はい」

バッシングというのは、テーブルを片づけることを示す業界用語。わたしはトレーを持って、お客様が帰ったばかりのテーブルに向かう。

『Caro一号店』に通うようになって二週間が過ぎ、だいぶ仕事も板についてきた。

――と言っても、わたしまで出向になった訳ではない。


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