甘い恋飯は残業後に


ため息を吐きながら難波さんに電話をしてみると、彼はワンコールで出た。

「桑原です。難波さん、今どこですか?」

『会社のロビーだが、どうした?』

「十時半に約束されていたお客様がいらしていますよ」

『間に合わなかったか……。悪い、今すぐ行く』


どうやら、今回は忘れていた訳ではなかったようだ。給湯室の水上ちゃんにそのことを告げに行く途中で、難波さんの姿がエレベーターホールに見えた。

「桑原、場所どこだ?」

「第二応接です」

「わかった」

わたしは給湯室から出てきた水上ちゃんに難波さんが来た旨を話して、席に戻った。


難波さんは、そこまでして『Caro』にいたいんだろうか。

会議で意見を募る、と言っていた件も、あれからすぐ後の会議では特に議題に出されることもなかった。


会議と言えば……今日はこの後、モリヤでリテール本部も交えた会議があるんだった。

憂鬱な気持ちを抱えながら、わたしはモリヤの会議室に向かうべく立ち上がった。


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