薬指の約束は社内秘で
第7章 それぞれの想い
関東でも本格的な梅雨入りが発表された7月初旬。

私が経営統括室の臨時社員となってから1ヵ月が経とうとしていた。
昼休みを告げる軽やかなチャイムが女子トイレにも流れ込む。

あぁ、これ小学校の給食を思い出すよねぇ。

実家が和風居酒屋のせいか洋食にあまり縁がなかった小学校時代は、給食のメニューに心を躍らせたのを懐かしく思う。

女子トイレの一角にあるパウダールームで化粧直しをしている私の隣には、数日前ドイツから一時帰国した仙道さんがいる。

控えめな色合いのピンクベージュの口紅を引き終えた彼女が鏡の向こう側で綺麗な笑みを浮かべた。

「向こうでの残務処理だけど、予定より早く終わりそうなの」

「そうなんですか! よかったですね」

「藤川さんには迷惑かけちゃったけど。気難しい優生をしっかりフォローしてくれたから、私も安心できたわ。少し早いけど、本当にありがとう」

「いえ、そんな。それに、しっかりフォローできてたかどうか……」

鏡越しではなく面と向かって小さく頭を下げる仙道さんに慌てて手を振る。
< 241 / 432 >

この作品をシェア

pagetop